天才の証明

きょうの夕方のこと、勤務先のシフト表を眺めていたところ、翌日の出勤に同僚女性(かわいい)の名前を確認しました。
「明日は○○さん(かわいい)が来るのだから、比較的よい服装で出勤したいな」

そう思った私は家に帰り、比較的ファッショナブルな(ここでは"人間の装いに近い"の意です)新しいシャツを出してハンガーにかけたのですが、そのシャツは先日いっぺん着て洗濯したので、シワシワの状態になっていました。
「あっ、そうか、これアイロンかけなきゃいけないやつだ」
しかし、いくら部屋を探してもアイロンは見当たりません。数ヶ月前、引っ越しの際に友人にあげたことを思い出しました。
実家で暮らしていた青年時代まで、アイロンかけは母の仕事となっていました。私は当然のように、アイロンかけされた清潔な服(ユニクロ)(お母さんが買ってきたやつ)を毎日着ていたのです。
一人暮らしをはじめて、毎日スーツを着る真面目な仕事をしていた頃、上司に
「シャツにアイロンくらいかけなさい」
と窘められ、当時の大家のおばあちゃんにもアイロンかけをやってもらうようになりました。アイロンがないときの代用品として、熱したフライパンが使えることを知ったのも丁度その頃でした。

キッチンに向かい、フライパンを取り出したのですが、表面に黒い焦げ跡がこびりついていました。洗い物でもすればよかったのですが、夜中なので、もうアイロンかけだけして寝てしまいたい気分であり、フライパン作戦は断念しました。
しかし、明日は○○さんが出勤する日でありますから、なんとしてもマシな服を着たい。そこで、なんとしてもアイロンの代わりを見つけだすことに決めたのです。
考えます。いま家にあり、アイロンないしフライパンの代わりになるものとはなにか?なるべく片手で持てる、100℃以上の熱された鉄板、キッチンで取り出したIH対応の汚いフライパン以外に、そんなものがあるのか。この家は電気ケトルを使っているので、お湯を沸かすやかんもないのです。

思案2分、私に天啓が舞い降ります。

「てかさ、ヘアアイロンって、アイロンじゃね???」

すぐさまコンセントにプラグを差し込み、ヘアアイロンの電源をオン。さらに霧吹きの代わりにファブリーズを使うことで、脱臭効果が大いに期待できるのでは?
一瞬にしてパズルのピースが埋まってゆく。髪をまっすぐにする要領で、まずは袖の部分からヘアアイロンを挟んで、外側にすーっと延ばす。袖はどうか。たしかにシワがなくなっている。これはアイロンよりも便利かもしれない。
かれこれ20分、私のシャツは本来の清潔感を取り戻したのです。

一仕事終え、麦茶を飲んでタバコを吸いながら、あしたの勤務中に○○さんと何を喋るかひとしきり考えた後(何も思い付かなかった)、ハンガーに掛けられて着れる状態になったシャツを眺め
「ああ、賢く生んでもらって、ほんとうによかった」
と、母にしみじみと感謝しました。かつての神童は、逆境において、その天賦の才を証明したのです。東京は静かに、26時を迎えていました。